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Restaurant Le Chateaubriand

バスク出身のイナキ・エズピタルト(Inaki Aizpitarte)は、パリ11区にあるフレンチレストラン『ル・シャトーブリアン Le Chateaubriand』のオーナーシェフ。独学で料理を学び、ジル・シュクルン氏が経営する「カフェ・デ・デリス」をはじめ、モンマルトルにある『ラ・ファミーユ La Famille』、パリ郊外の現代アート美術館MAC/VALに併設するレストラン「トランスヴェルサル Le Transversal」等でシェフとして経験を積む。自身がオーナーを務めるル・シャトーブリアン2006年にオープンし、2011年には世界のベストレストラン50にて9位にランクインする。2010年には二軒隣に二号店となるレストラン・ワインバー『ル・ドーファン Le Dauphin』をオープンし、まさに今後のフランスのビストロノミー(ビストロとガストロノミーの造語)界を担う注目のシェフ。

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Le Chateaubriand – Plates

ワカペディアの見るル・シャトーブリアン

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Inaki Aizpitarte

ル・シャートブリアンのイナキさん(※日本人ではありません)は、サラワカが心底インタビューしたいと思っていた人の一人だ。彼のレストランに行くと、トマトのガスパッチョにコーヒー豆が入っていたり、生の卵黄が乗ったデザートが出てきたりと、毎回その奇想天外な料理に驚かされる。そんな大胆な料理を作るシェフが、こんなにも若くてMAROON 5のボーカル似(?)のイケメンだという事を知ったのは、地下鉄で彼の巨大なポスターを目にしてからだ。

あれを見てから、サラワカのインタビューへのモチベーションが一気に上がったのは言うまでもない。レストランに何度も足を運び、4回目に思い切ってワカペディアの話を切り出した。するととても気さくなイナキさんは、多忙にも関わらず快く引き受けてくれた。こうしてサラワカは、彼の電話番号をゲットしたのだった!

万全の準備をして挑んだインタビュー当日。無事にインタビューも終わりに近づき、イナキさんの話の奥深さに感心していたところ、肝心の写真撮影になって異変に気付いた・・・カメラにメモリーカードを入れ忘れたのだ!まさかの失態にペペロンチーノのように真っ赤になったサラワカ。それを見たイナキさんは「レストランに来てくれればいつでも写真は撮ってあげるから、気にしなくても良いよ」と、優しくフォローしてくれたのだった。次こそは挽回せねば!

その後、さすがに写真を撮る為だけに行くのは失礼だと思って、ディナーを予約することにしたサラワカ。人気店の上、予約受付が1日のうち4時間半のみということもあって、テーブルの確保が本当に難しい。この日もいつものように電話をかけるものの、全く繋がらないのでぶつぶつ言いながら待っていると、やっと誰か出た!「あぁ~やあああっと繋がった!すいません、来週の金曜日2名予約したいんですけど!」と勢いよく言ったのに対して、電話の向こうから返ってきた言葉は「もしもし?」のみ。電波も悪く、結局お互い「もしもし?」の言い合いにしかならず、しまいには電話を向こうから切られてしまった。少しむっとしかけ直すと、今度は携帯電話会社の留守番メッセージに転送された。お店の番号なのに携帯電話会社の留守番電話サービスなんて変だなぁと思ったサラワカは、番号を見直して気づいた。ストーカー並みにかけていた番号はレストランではなく、シェフ本人だったのだ!挽回どころが、もうインタビューなんて引き受けてくれないかも・・・と自分の失態に落ち込んでいた次の日、「写真撮りたいんだよね?今週はずっとレストランにいるから、いつでも来て良いよ!」と電話をかけ直してくれたイナキシェフ。なんて優しいんだ!こんなに寛大なシェフは、おそらく世界中探してもイナキ・エズピタルだけだろうと、単純なサラワカはもうすでに開き直っていた。

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Inaki Aizpitarte for BHV

サラワカ:やっほ~イナキさん!今回は私の拙いフランス語でインタビューするよ!宜しくね!(本当はすごく緊張)

イナキ:オーケー、頑張って(笑)

サラワカ:地下鉄の広告で見たイナキさん!あなたのバックグラウンドを教えてください!

イナキ: 名前はイナキ・エズピタルト。今僕はル・シャトーブリアンドファン(Dauphin) というお店のオーナーシェフをしていて、この二つのレストランの間にあるLe Caveっていう小さなワインセラーの共同経営者もやっているよ。シェフになって15年位だけど、造園師の勉強を経て27歳でようやく料理を始めたから、僕のキャリア・スタートは比較的遅かったんだ。

サラワカ:なるほど!27歳の時に・・っていうことは、今は何歳なの?

イナキ:42歳だよ。

サラワカ:42歳?!30代前半かと思ってた!ところで、イナキさんの出身は?

イナキ:僕はバスク出身なんだ。父がスペイン系バスク人で、母はフランス寄りのバスク出身。だから僕はフランス寄りのバスク地方で育ったんだけど、ボルドーにも長く住んでいたし、他の地方にも住んだことがあるよ。

サラワカ:そうなんだね!イナキさんは、どんなきっかけで料理を始めたの?

イナキ:テル・アヴィブ( イスラエルの第二人口都市 )へ旅行した時、厨房で働く機会があったんだ。その後パリに移って、それと同時に料理も学び始めたよ。と言っても、学校には行かず独学だったけど。でも料理に対する情熱は溢れていたし、シェフになる年齢としては遅かったから早く上達したいっていう気持ちも強くて、全部トントン拍子に進んでいったよ。それからラ・ファミーユのシェフになって、ヴァル・ド・マルヌ現代美術館(MAC/VANっていうアート美術館のレストランの開店にも携わったんだ。その後シャトーブリアンを始めてもう8年、ドルファンは4年弱になるかな。

サラワカ:とってもインターナショナルなシェフなんだね(笑)じゃあイナキさんの料理は、そういった色々な国の文化からインスピレーションを受けてるの?

イナキ:文化だけじゃなくて、あらゆるものからかな。例えば、シャトーブリアンが位置するベルヴィル地区は、パリの中でも現代的なエリアであらゆる人種に対してオープンだから、そういうコスモポリタンな雰囲気を料理にも取り入れているんだ。だからシャトーブリアンの料理は、この地区のカラーを反映してるって言えるかな。

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Le Chateaubriand – Plates

サラワカ:私は色んな人と一緒にシャトーブリアンの料理を食べさせてもらったけど、みんな親しみやすいって言うよ!特に日本人!それって多分、《本当の魚》の味を楽しめるからじゃないかと思うんだ。

イナキ:確かに、僕の料理には沢山の貝や生の魚介類を使っていて、素材の味を生かすようにしているからかもしれないね。そう言ってもらえるのは嬉しいな。僕自身、和食はとても好きだよ。

サラワカ:イナキさんの料理は日本料理の影響も受けているのかな?

イナキ:もちろん、僕は少なからず影響を受けた一人だって言えるだろうね。2000年頃に日本料理が世界中で大流行して、そこからインスピレーションを受けたシェフは沢山いると思うよ。未知の味付け、食感、寿司のように生の食材を用いた料理法とかね。

サラワカ:じゃあ、イタリア料理は?

イナキ:イタリア料理は、フランスではちゃんと知られてない気がするな。隣の国だと逆に興味が薄くなってしまって、距離感が近ければ近いほど《なんとなく知っている》で終わってしまうと思うんだ。一般的にフランスでイタリア料理と言えば、ピザとパスタだけど、本当のところは地域によって全く違う料理があったりするよね。フランス人が思っているほど、イタリア料理は単純じゃないと思うんだ。一方で、イタリア料理は伝統的なものがまだ強く残っていて、その枠から飛び出して独創的な料理を作ることが難しい面もあるけどね。

サラワカ:イナキさんって話題が豊富だから、聞いててすごく勉強になるな〜。そういえば行く度に思うんだけど、シャトーブリアンって昔ながらの良さは残っているのに料理やサービスがモダンで、雰囲気がすごい好き!

イナキ:ビストロの雰囲気はお店のインテリアや料理、ウェイター、ソムリエそして料理を食べに来てくれたお客さん達が全て一体となって、作り出されているんだ。僕は一緒に働いている人達を規則で縛るのが嫌いでね。みんな違う考えや個性をもって仕事をしているから、それを尊重したいんだ。

サラワカ:なんて理解のあるシェフ!それじゃあ最後の質問ね、あなたにとってアートとは?

イナキ:う~ん・・・料理をアートだって言う人もいるけど、僕はあまりそれには共感してないんだ。仲の良いアーティストの友達も身近にいるけど、彼らの作品を見るとやっぱり料理とは違うなって感じるよ。料理にもアート的で繊細な一面はあるけれど、どちらかというとお客さんをもてなすものだし、値段やサービスがあって、機械的で日常的なものだから、アートとは比べることができないと思うんだ。もちろん、アーティストが作品を通して表現したいことがあるように、料理にも伝えたい思いみたいなものは込められていると思うけれど。両者とも作り出す過程が違うしそれぞれ別の持ち味があるから、僕にとって二つは全く別のものなんだ。

サラワカ:イナキさん・・・まさか料理以外にこんなにも色々な分野の話を聞けるなんて想像もしてなかったよ!料理が美味しいだけじゃないなんて、さすがです!そんなあなたには、ミシュランならぬワカペディアの星を差し上げましょう(笑)

イナキ:あ・・うん、ありがとう(笑)

サラワカ:今日は本当にありがとう!最後に毎回インタビューの終わりにお願いしてる事があるんだけど・・・キスしてちょうだい?

イナキ:キス?(少し驚きながら)あっ・・いいよ。
サラワカ:あっ!あのっ、これは日本人にはそういう習慣がないから面白いかなと思って始めたことなのっ!(焦りながら弁解するサラワカ)

イナキ:もちろんだよ!チュッ(ほっぺたに)
サラワカ:Grazie Mille! (どうもありがとう!)

頬に当たったヒゲを少し痛く感じつつも、サラワカは満面の笑みを浮かべた。

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Inaki Aizpitarte & Sara Waka/Federica Forte

Description & Interview: Sara Waka

Edited by:Yuliette